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JAZZとROCKが 三度のめしより好きな おっさんの戯れ言

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菅癪直太(かんしゃく なおた)は大分のネオン街、都町をホテルのほうへ歩いていた。

先月、ライバルの小邪和(おじゃわ)を蹴落として日ノ本商事の社長になったばかりで気分は上々であった。

取引先の接待でクラブを2軒ほどハシゴした帰りだった。




突然、第1ビルの角で、声をかけられた。

   「社長サーン!」

さっきのクラブでもそう呼ばれ、いい気分になっていた菅癪は思わず「はーい!」と返事をしてしまった。

心のなかで“ しまった ”と思いつつ振りかえると菅癪好みの女性が。

「社長サーン、まっさーじイカガデスカ。」

「マッサージかぁ」

中高年の悲哀か、マッサージという言葉に癒しを感じてしまう。

「個室まっさーじ、トテモ、キモチイイアル。」

「えっ、じゃぁもしかしてナニでナニをナニしてくれるわけ?」

「ハイ、すぺしゃるナてくにっくアル」


そういうと、女は菅癪の腕にまとわりつくように歩き出した。

“ なぁに、仕事も終わったし、ちょっと旅のアカでも落としていくか。”

腕を引く女の力に体をあずけながら薄暗い路地を歩いていった。


30メーターほど歩くと女は薄暗く裸電球が灯るビル前でとまった。

ちいさな看板があった。

“ 個室マッサージ「尖閣」 ”

「せんかく・・・って?」

「私、ソコノ出身アル」

「そんな地名あったかなぁ?」

どこか聞き覚えのある地名を思い出しながら、背中を押されるように菅癪は階段を昇っていった。

2階の入り口を入る際、目つきの鋭い男とすれ違ったが菅癪はさほど気にしなかった。



ドアを開けると真ん中が通路になっていて、左右にドアが2つ、計4つの個室があった。

女は右手1番目のドアを開け、菅癪を招きいれた。

入るとソファとテーブルがあり、部屋の奥半分はカーテンで仕切られベッドが見えた。

「社長サン、がうんニキガエルアル」「フクハソコニカケルヨロシ」“うーん、あそこでヤルのかー”

そういうと女は出て行った。

菅癪は気持ちの昂ぶりを感じつつガウンに着替えた。



ベッドに横たわっているとノックがして女が入ってきた。

複数の足音が聞こえたような気がしたが、入ってきたのはスレンディーな女一人だった。

チャイナ服風の上着にショート・パンツといういでたち。

「デハ、まっさーじスルネ。ウツブセニナルヨロシ」

「はい、なったよろし」

オイルを手に取り、肩から背中、腕と塗りながらマッサージを始めた。

女の手の感触がここちよい。

次は足からふくらはぎ、太ももへと続く。暖かい蒸しタオルにつつまれるとやはり気持ちがいい。

“うらはいいから、早く表返してくんねえかなぁ”そう思ってると「オ客サン、ウエヲ、ムイテクダサイ」

“おっ、きた、きた。” くるりと天井のほうを向いた。

一連のマッサージを終え、タオルで蒸される。

“ヒッヒッヒ、さてといよいよかな”すると女は「チョット待ッテネ」といって部屋から出て行った。

“なんだろ、コンドームでも取りにいったのかなぁ”


「遅いなぁ」

菅癪は待ちきれずにパンツを脱いでしまった。

女が戻ってきた。入り口でなにかゴソゴソやっている。

「おーい、もう待ちきれないよーん」

女がカーテンを開け、スッポンポンの菅癪を見ると「キャッ、オ客サン、ナニスルアルカ!ココハまっさーじスルトコアルヨ」

「えっ、こいつをマッサージというか、ナニしてくれるんじゃないの?」

「ナニヲ、イッテイルアルカ」

「だって個室マッサージ“尖閣”って書いてあったじゃないか」

「せんかくノせんハ“せんずり”ノせんアル。 自分デ、カクカラ“センカク”アル。」

「あぁ、自分でせんずりかくから“せんかく”かぁ。はっはっは、うまいこというなあぁ。

おっと、そんな駄ジャレを言ってる場合じゃない!」

「どうしてくれるんだ、1万円も払ったんだぞ!」

「ダカラ、まっさーじキモチヨカッタカ。」

「まあ、それはそれでよかったけど・・・」

「ナラ、ソレデヨカッタアル」

なにげなくドアのほうをみると先ほどの目つきの鋭い男がドアの隙間からこちらの様子を伺っている。


“ヤバッ”

身の恐怖を感じて、菅癪はそれ以上言うことをあきらめた。


“一刻も早くこの店から出よう”急いで服を着ると、逃げるように階段を下りた。

ふりかえるとさきほどの電球は消えて、薄暗い通りの向こうに表通りの灯りが見えた。




それから忙しい毎日があの忌まわしい夜を忘れ去ろうとしていたある夜、帰宅すると女房の花子が

血相をかえて1枚の封筒を差し出した。


「あなた!何!これは!」

「何って?」

差出人は春暁クレジット会社となっていた。

「わっ!」

菅癪の身覚えのない大型テレビや高級カメラ、冷蔵庫、洗濯機、アクセサリーなどの請求だ。

“やられた!”

菅癪は思い出した。

あのとき、入り口でなにかゴソゴソやってたのは、おれのカードを盗んだのか。


“女房になんて言い訳しようか”

あの夜のことが走馬灯のように駆け巡り、頭の中は真っ白になりだんだん意識が遠のいていった。



(この物語はまったくのフィクションであり実在の政治家等とは関係ありません)
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