(その9からのつづき)
家を出た時は小降りだった雨も、製鉄所や化学コンビナートが立ち並ぶ湾岸道路を走る頃には、すっかり本降りになっていた。
ワイパーがフロント・ガラスに音を立てながら扇の形をつけている。
「そろそろワイパーも換えないとなぁ」
雨が降るとそんな気になるが、晴れるとすっかり忘れてしまっている。
外で仕事をするようになっても、暑い、寒いは平気だった。
だけどなぜか雨はきらいだった。
カッパを着ることも、ずぶぬれで仕事をすることもきらいだった。
「なんでこんなときに雨が降るんだ。」
求人誌でみつけた面接の時間には十分余裕があったが、遣太はイラつきぎみに車線を変えながら遅い車を追い越していった。
その会社へは予定の時間より30分も早く着いた。
会社のまわりを一周してから手前のわき道に車を止めて時間をつぶす。
もう一度求人誌を見直して確認した。
仕事はトラックの運転手だ。スーパーへの配送だから経験も自信もある。
給料はそれほどよくないが、この際ぜいたくは言ってられない。
「こんにちは、ドライバーの面接にうかがいました大派と申しますが。」
現場のようにはいかないので遣太は言葉に気を使いながらあいさつした。
「どうぞ、こちらへ」通された部屋は休憩室だった。
「初めまして、私、求人担当の高橋と申します。この度は当社へのご応募ありがとうございました。」
出てきた担当者は折り目正しくあいさつをした。
業界が違うとこんなに違うものか。
「初めまして、大派です。よろしくお願いします。」
面接担当の高橋は矢継ぎ早に質問をしてきた。
「毎日九州フーズでは出発時間は、また帰社時間は?」 「夜中の2時ごろ出て、帰りはお昼ごろですかねぇ」
「手積みするときがあるんですが、大丈夫ですか?」 「建築の現場で働いてましたから問題ありません」
「トラックは2tと4tがあるんですがどちらを希望されます?」 「どちらでもO.Kです」
「休日はローテーションでとりますが、その辺いかがですか?」 「ひとり者なのでいつでも出勤できます」
「作業服のサイズはMでは小さいでしょうか。」
おいおい、そこまで聞くの?
「Lがいいと思います」
「結果は一週間後にご連絡いたします。」高橋は満足げだった。
「では、よろしくお願いします。」
遣太には、かなりいい内容の面接に思われた。
これから一週間何をしようか。考えながら遣太は会社をあとにした。
「でも感触はよかったなぁ、服のサイズまで聞いてきたし、こりゃいけるかな。」
遣太はトラックで配送している自分を思い浮かべながら、ネオンきらめくパチンコ屋の駐車場に車を突っ込んだ。
(つづく)
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