(その8からのつづき)
河合から自宅待機の指示をされていたが、一向に連絡の気配はなかった。
毎日何もせず、ただ無意味に生きているだけだ。
時計は午後2時をまわっていた。
次の日の仕事は3時過ぎに決まるシステムだ。
仕事があれば、3時過ぎに連絡が入る。入らなければ仕事は無い、ということになる。
「大派さーん、居る?」ベランダの下から呼ぶ声がした。 大家だ。
「大派さん、最近仕事出てないの? おたくの車、駐車したままだからねぇ」
大家には怪我の話はしたが、あれからまったく仕事がないことは伏せておいた。
たぶん家賃の心配をしてるのだろう。
「うん、仕事が一段落したので次の現場までちょっとお休みしてます。」
「ああそうなの、」
ちゃんと仕事をしているか、とか失職していないか、とか家賃にかかわることには敏感な大家だ。
今月はちゃんと入金したが、来月の家賃分はきびしい。
仕事は無くても、ハラはへるし、光熱費もかかる。
このまま無収入が続いたら、とても家賃の捻出は不可能だ
大家の相手をしていたら、3時をすぎてしまった。
大家が自宅にもどったことを確認してから社長の河合に電話をかけた。
「社長、どうですかね、仕事のほうは?」
「大派さん、あれから縮小されるばっかりでまいっちゃうよ。大山建設なんて、まったくヒマになっちゃったんだから」
大山建設は遣太も仕事をしたことのある会社だ。毎日コンスタントに仕事をくれていた会社がそんな状態だとは。
「大派さん、この業界もっと悪くなるとおもうよ。他を探してみてもいいよ。」
「えっ、他を・・・ですか?」
それって・・・クビってこと?
「まぁいろんなとこ探せばあるよ、それまでに仕事出たら連絡するよ。」
河合はあまり相手をしたくなかったのだろう、そそくさに切られてしまった。
他をさがしてもいいということは、やめていいということか。
はっきり宣言しないけど、これってクビ切りだよな。
でもクビとは言ってないし、派遣といっても契約期間をきめた派遣ではないから契約違反ではないし・・・
考えることもめんどくさくなり、遣太は近くのコンビニへ求人雑誌を買いに出かけた。
「薄!」
5年ぶりに買う求人誌はすっかり薄くなっていた。
(つづく)
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